第三章 全ての謎を解くただ一つの鍵
前章では、城北線の疑問点を幾つも取り上げました。
調べた結果、特急列車については城北線を経由すると、金山駅や千種駅に
停車できなくなってしまうということで将来的にも現状維持になりそうです。
しかしそれ以外については、全て同一の要因が出発点になっていました。本章でこれを紹介します。
1.とある法律の存在
国鉄時代、新幹線からローカル線まで、私鉄を含めほぼ全ての新規に建設された鉄道の
資金調達や建設を一手に担っていたのが、いわゆる鉄道公団でした。
国鉄解体と時を同じくして鉄道公団も解体、鉄道・運輸機構になりましたが
この際に、機構の方針を定めるため、とある法律が制定されています。
それが、 【独立行政法人鉄道建設・運輸施設整備支援機構法】 です。
以下、鉄道・運輸機構法と略称します。
2.鉄道・運輸機構法について
この法律は、というよりはどの法律もそうなのですが
長くて難しい文章で構成され、素人には何を言っているのか良く分からず、解釈は困難を極めます。
そんなわけで、城北線との因果が深い条項のみをピックアップして紹介します。
全文読んでみたいという方は・・・ググっていただければ幸いです。
『(業務の範囲)
第十二条 機構は、第三条の目的を達成するため、次の業務を行う。
五 国土交通省令で定める規格を有する鉄道(新幹線鉄道を除く。)又は軌道に係る鉄道施設又は
軌道施設の建設及び政令で定める大規模な改良(以下「大改良」という。)を行うこと。
六 前号の規定により建設又は大改良をした鉄道施設又は軌道施設を当該鉄道又は
軌道に係る鉄道事業者に貸し付け、又は譲渡すること。』
後で紹介する条よりも後の番号になりますが、鉄道・運輸機構の目的が明記されているため
先にこちらの説明をします。
この第十二条は、つまるところ「鉄道線を建設して、これを貸したり提供する」ことが
鉄道・運輸機構の仕事であると書かれています。この辺りは鉄道公団時代から変化していません。
『第七条 【前略】鉄道施設を貸し付ける場合における毎事業年度の貸付料の額は、
第一号から第三号までに掲げる額の合計額から
第四号に掲げる額を減じて得た額に相当する額を基準として定めるものとする。
一 当該鉄道施設の建設に要した費用のうち借入れに係る部分を
国土交通大臣が指定する期間及び利率による
元利均等半年賦支払の方法により償還するものとした
場合における当該事業年度の半年賦金の合計額
二 国土交通大臣が定める方法により計算した当該事業年度の当該鉄道施設に係る
減価償却費の額に、当該鉄道施設の建設に要した費用のうち借入れに係る部分以外の
部分の額を当該鉄道施設の建設に要した費用の額で除して得た率を乗じて計算した額
三 当該事業年度の当該鉄道施設に係る機構債券に係る債券発行費及び債券発行差金並びに
租税及び管理費の合計額
四 機構が当該事業年度において当該鉄道施設に関し政府の補助を受けた場合にあっては、
当該補助を受けた金額 』
( ゚д゚)
(つдと) ゴシゴシ
( ゚д゚)・・・。
_, ,_
(;゚д゚) ???
ぱっと見では全然意味が分かりませんが、第七条は、鉄道・運輸機構が
自身で建設した鉄道線を、これを経営する鉄道会社に貸し付ける際の料金を定めたものです。
鉄道線を家に例えれば、機構が住宅業者で鉄道会社が家を買う個人、料金はローンになります。
貸付料とはいいながらも、建設費などに応じて上限額は路線毎に定まっており
これを払いきれば、鉄道路線は機構の手を離れ鉄道会社のものとなります。
要はローンの支払額を計算する基を明記しているのが第七条です。
第七条は更に一、二、三、四のそれぞれの項目で支払に関する詳細が明記されており、
これらの額を合計してようやく、毎年の支払額が決まる仕組みになっています。
実はこのうち、第七条の三が、城北線の核心を握っているのです。
第七条の三の解説については、長くなるので次の項にまとめました。ご覧ください。
3.鉄道・運輸機構法第七条の三について
ここで、改めて第七条の三をの条文を確認します。
『三 当該事業年度の当該鉄道施設に係る機構債券に係る債券発行費及び債券発行差金
並びに租税及び管理費の合計額』
これは文章の通り、債権発行に関連する諸費用+租税+管理費を
払ってくださいという事を言っています。
条文でも太字にしましたが、管理費が最も重要な意味合いを持っています。
この管理費が、「誰が」、「何の」管理費なのかを解釈することで答えが出てくるのです。
先に正解を言えば、「JRが」、「城北線に投資する各種費用」になるのですが・・・
本当に鉄道・運輸機構法が言う管理費とはそれで合っているのか?という疑念が出てくるかと思います。
しかし、この城北線における鉄道・運輸機構法の解釈については、実はJR東海の公開文書で
読み取ることができるのです。その名も、「有価証券報告書」です。
この有価証券報告書は、JR東海の公式で検索すればpdfがヒットします。
更に本文を「城北線」で検索すれば、城北線が鉄道・運輸機構から借り受けている
鉄道施設であることがまず確認できるはずです。
そしてその後には、下の様な表と文章がヒットするはずです。
ここに城北線において鉄道・運輸機構法がどう働いているかが明記されています。
こちらで引いた下線部分の文章がキーポイントであり、その中でも
「この賃貸料は、毎年、財産及び管理費の増減などにより若干の変動はありますが」
という箇所が、全ての謎を握る鍵なのです。
上記の文面から、「管理費」とは、JR東海が城北線を運営するための各種費用、すなわち
線路や構造物の維持・修繕費用、列車の燃料代・点検費用、運転手や保線作業員の人件費など
あらゆるものを指していると判断されるのです。
管理費が鉄道・運輸機構法で定められている貸付料に含まれているということは、
管理費が増えればJR東海が機構に支払う貸付料も増えてしまうということなのです。
故に、城北線に投資をすればするほど、JR東海の借金が増えてしまう。
通常であれば、設備投資を行えば通勤路線としてまとまった利用客が期待でき
投資に見合う利益を望める潜在力を城北線が持っていても、
鉄道・運輸機構法の制約があるためにその利益が発散してしまう。
故に、JR東海は城北線に必要最低限の投資しか行わないし、行えない。
こういうことだと推理されるです。
4.全ての謎を解くただ一つの鍵――鉄道・運輸機構法のまとめ
鉄道・運輸機構法の第七条は、鉄道・運輸機構の建設した鉄道線で
経営を行う鉄道会社が、鉄道・運輸機構に支払う貸付料を定めています。
このうち、第七条の三では、貸付料の中に管理費が含まれているとされています。
この管理費は、JR東海の有価証券報告書より、JR東海側が城北線に投資する
維持修繕費や車両の諸費、人件費などを指していると考えられます。
つまり、城北線の設備が増えて、管理費が増えると、それだけJR東海が機構に支払う
貸付料、すなわち借金も増えて本来得られうる利益が発散してしまうと推理されるのです。
電化をして電車を導入し、列車の本数を増やせば、機構への支払いが膨らんでしまう。
勝川駅への乗り入れを行うために建設工事を行えば、機構への支払いが膨らんでしまう。
駅にエレベータやエスカレータを設置すれば、管理費が増えて機構への支払いが膨らんでしまう。
JR城北線にすれば、人件費等が増えて機構への支払いが膨らんでしまうし、決算にも影響が出る。
政府の諮問機関である運輸政策審議会は城北線の裏事情を把握していたので、
当初からの決定事項であった枇杷島駅〜尾張星の宮駅の延伸以外を答申に盛り込まなかった。
故に、JR東海は城北線に必要最低限の投資しか行わず、今の城北線があると推理されるのです。
そして、このような事情を抱えた城北線が、鉄道・運輸機構法の縛めから解き放たれ
地域の為に役立つ通勤路線として、長野地域への石油輸送を担う貨物路線として
本来あるべき実力を発揮するためには、以下の2通りの選択肢があります。
@JR東海が城北線の貸付料を完済する平成44年(2032年)まで、ひたすら待つ
A鉄道運輸・機構法を改正させるか、城北線を例外として扱うことを認めさせる
例えば一日も早く城北線による名古屋市北部地域の活性化などを図りたいのであれば
どちらを選ぶべきかは言わずもがなではないでしょうか。
私の推論が的を射ないものでなければ、決して待ち続ける必要はないはずです。
5.おまけ:鍵の鍵――鉄道・運輸機構法で城北線ががんじがらめにされた理由
城北線が現状の様な状態になっている原因は分かりましたが、どうしてこうなったかという
理由については、法律からはいまいち読み取れませんでした。
また、鍵が一つと言っておきながら城北線が複線で開通した理由についても同様ですすいませんorz
これらについては、申し訳ない事にネット上の掲示板由来のソースしかありませんが、
どうやら城北線は政治的な意味合いも持たされているようです。
国鉄時代から一番の稼ぎ頭であった東海道新幹線を国鉄から引き継いだJR東海は、
莫大な建設費が投入された当時の瀬戸線=現在の城北線を、
借金とともに押しつけられたという経緯があるようなのです。
AB線と言われる地方交通線については、将来も収益が見込めないために
国鉄の手を離れ、第三セクターに転換する際に借金は帳消しになりました。
しかし、瀬戸線は幹線や都市近郊の路線を指し、収益が見込まれるとされたCD線であり
建設が継続されるとともに、完成後はJRに引き継がれることとなりました。
瀬戸線のうち、高蔵寺−瀬戸の区間については、AB線とされた岡多線と一体で
第三セクター(愛知環状鉄道)が運営することが決まり、借金が帳消しにされました。
用地取得が途中で止まり建設が開始されていなかった中央線との並走区間と、
稲沢−小田井については、引き継いだJR東海が土地を売却し、それっきりになりました。
一方残りの区間、既に高架がほぼ建設されていた小田井−勝川については、
開通させる事が決まりました。複線化をした上で開通したのも、この辺りに由来がありそうです。
実際問題として、解体するにしても莫大な費用がかかり、かといって放置すれば
固定資産税ばかりがかかる無用の長物を持ち続けることになります。
開通させれば固定資産税が減免されるというメリットがあるそうで、JRとしても開通させた方がよかったようです。
鉄道・運輸機構法により、JR東海は平成44年まで城北線の貸付料を払い続けることになりました。
管理費が支払額に含まれ、また東海道新幹線と違って投資の見返りが小さいとあっては
支払が完了するまでの間、都市鉄道としては最低限のコストで運営せざるを得ません。
コストのかかる電化はせず、レールは新幹線で使い古した中古の60sレールを転用し、
工事も開通前からの決定事項であった枇杷島−尾張星の宮の延伸のみとして
勝川駅への延伸は準備のみに留め、JR東海本体の決算から城北線の損益を分離して
かつ運用コストを抑えるために子会社の運営路線としました。
開通にあたり、地元からは新駅の建設の要望が複数あったようですたが
上記の事情もあり、建設費の一切を地元自治体が負担する事が条件となりました。
結局、地元請願駅で実現したのは比良駅のみでした。