第六章 城北線の完全開業による効果〜貨物編〜





貨物編では、城北線を利用可能な貨物列車の紹介と、これによる時短等の効果、
また、波及して発生するメリットを検討しました。

こちらでも旅客編との共通項については解説を省略し、前提条件とします。



1.城北線を利用可能な貨物列車

現在、中央線を通っている貨物列車で、城北線を利用可能な貨物列車は以下の通りです。
本数については平成21年3月時点のものを使用し、「定期列車本数(臨時列車本数)」と表しており。
合計数を先に述べると、上り、下り共にそれぞれ8本(3本)の計16本(6本)です。
なお、臨時のみ設定されているセメント列車については、どうやら近年走っていない様なので除外しました。


@四日市・塩浜←→南松本 の石油貨物列車

石油貨物列車

三重県の石油コンビナートから長野県へ石油類を輸送する貨物列車は
現在、四日市・塩浜を発車した後、一旦稲沢駅で方向転換を行って南松本へと向かっています。
これらの貨物列車は、城北線を利用することで三重から長野までの通し運転が可能となり
折り返し運転を解消することができます。

本数は、長野行きの下りが5本(3本)、三重行きの上りも5本(3本)の計10本(6本)です。


A名古屋貨物ターミナル←→北長野 のコンテナ貨物列車

長野県と長野県より西側の各地を結ぶコンテナ貨物列車は、稲沢駅で方向転換を行った上で
一旦名古屋貨物ターミナルへと向かい、ここで目的地別の列車に載せ替えられています。
この貨物列車についても、城北線を利用することで通し運転が可能となり
折り返し運転を解消することができます。

本数は、長野行きの下りが1本、名古屋行きの上りも1本の計2本です。


B名古屋貨物ターミナル←→春日井 の紙輸送貨物列車

紙輸送貨物列車

愛知県春日井市の製紙工場から首都圏へと紙を輸送する貨物列車は、
一旦稲沢駅で方向転換を行って、埼玉県の越谷貨物ターミナル駅まで向かっています。
この貨物列車についても、城北線を利用することで通し運転が可能となり
折り返し運転を解消することができます。

本数は、春日井行きの下りが1本、越谷行きの上りも1本の計2本です。


C名古屋貨物ターミナル←→多治見 のコンテナ貨物列車

岐阜県多治見市と日本各地を結ぶコンテナ貨物列車は、稲沢駅で方向転換を行った上で
一旦名古屋貨物ターミナルへと向かい、ここで目的地別の列車に載せ替えられています。
この貨物列車についても、城北線を利用することで通し運転が可能となり
折り返し運転を解消することができます。

本数は、多治見行きの下りが1本、名古屋行きの上りも1本の計2本です。




2.石油貨物列車のスルー運転に必要な関西本線、塩浜線の改良について

前述した城北線を利用可能な貨物列車の内、四日市・塩浜から長野県へと向かう
石油貨物列車については、正確には現在のままでは利用し辛い状態となっています。
これは、稲沢駅で単に方向転換をするだけでなく、石油貨物列車を牽引する機関車を
ディーゼル機関車から電気機関車に繋ぎ換えているためです。

DD51牽引の石油貨物列車

三重から長野まで電気機関車を通しで使用していないのは、四日市駅から分岐している
関西本線の貨物支線である塩浜線が非電化であり、電気機関車が使用できない事。
また、これに合わせて四日市駅等の構内も電化されていない事が理由です、

このため、石油貨物列車が城北線を利用するためには、前提条件として
関西本線および塩浜線の電化を実施してディーゼル機関車による牽引を止め、
電気機関車に統一する事が必要となります。

引火の危険があり、電化できない末端の区間等については、入換用機関車に任せ
機能分離をする事になるでしょう。




3.貨物列車の城北線経由による直接的な効果

これまで稲沢駅から中央線の名古屋−勝川を経由して通っていた貨物列車が
城北線を利用することで発生する直接的な効果は、以下の通りとなります。


@稲沢駅での折り返し運転の解消による時間短縮、コスト縮減

城北線を利用することになるとして挙げた貨物列車は、いずれも現在は
稲沢駅で折り返し、四日市・塩浜、名古屋貨物ターミナル、関東へと向かっています。
これらは全て、城北線を利用することで稲沢駅での折り返しを行う手間から解放されます。

効果としてはまず、走行距離が短くなる事、稲沢駅で停車して機関車を繋ぎ換え
進行方向を変える時間が消滅する事から、所要時間が大幅に短縮されます。
そして、機関車の繋ぎ換えに関連する、誘導員等のコストの削減も期待されます。


A過密区間である稲沢駅−勝川駅間を回避する事による遅延抑制

貨物列車が稲沢駅で折り返し運転を行っている現在、勝川駅−名古屋駅では中央本線、
名古屋駅−稲沢駅では東海道本線を走っています。
同区間やその前後は通勤列車等で大変混雑しており、一度東海道線か中央線のどこかで
ダイヤが乱れれば、貨物列車も漏れなく影響を受けます。

城北線を利用することでこの過密区間を迂回する事が可能となり、東海道本線で受ける
悪影響についてはほぼ解消されます。中央本線についても悪影響を緩和する事ができます。
これにより、現在よりも遅延の回数や時間を抑制する事が可能となります。


A過密区間である稲沢駅−勝川駅間を回避する事による本数増、ダイヤの変更

過密区間を城北線で迂回する事で、ダイヤに余裕を生む事ができます。
これにより、必要であれば貨物列車の本数を増加させる事が可能となります。

また、貨物列車をより利用しやすい時間帯にずらす事も可能となるかもしれません。


Cディーゼル機関車の運用廃止によるコスト削減

石油列車が城北線を利用する前提条件として、関西本線・塩浜線を電化し
同区間のディーゼル機関車を電気機関車により置き換える必要があるのは既に述べましたが
これによってかなりのコストを削減する事ができます。

DD51牽引の石油貨物列車

まず、四日市・塩浜〜稲沢間で使用されているDD51型ディーゼル機関車は不要になります。
代わりに担当する電気機関車は、稲沢〜南松本間で使用されているEF64、
もしくは後継のEH200です。これらは、運用車両が統一される事で、現在のディーゼル機関車と電気機関車を
合わせた数よりも車両数を削減できます、EH200であれば、DD51やEF64が重連で牽引している
石油貨物列車を単機で牽引できるため、必要な車両数は更に削減できます。

連接型電気機関車EH200

ディーゼル機関車の削減により、ディーゼル機関車用の燃料代や点検・修繕設備、人員等も
連鎖して削減できます。入換用や、三重県の鵜殿まで行く貨物列車用のディーゼル機関車は残るので
0にはできませんが、こちらも効果は十分に期待できます。




4.貨物列車の城北線経由による波及効果

波及効果は、直接的効果の実現により副次的に生まれる効果と定義します。
推定される事例は以下の通りとなります。


@東海道線、中央線の遅延抑制

東海道線、中央線を利用していた貨物列車が城北線に移ることで
その分、東海道線と中央線のダイヤに余裕が出来、旅客列車等にも遅延の抑制効果が表れるでしょう。

そして、城北線に移る貨物列車分だけ、東海道線と中央線を跨いで運用される列車が減ります。
これにより、いずれかの路線でダイヤが乱れても、残りの路線に影響が出にくくなってくる効果も期待できます。


AJR貨物の収益増加

貨物列車が城北線を利用する事で、稲沢駅での折り返し運転が解消されます。
これによる効果をまとめれば、まず第一に所要時間の短縮が挙げられます。
所要時間の短縮で、車両運用の効率が上がり、貨車や機関車の必要数を減らせる可能性が生まれます。
また、コンテナ列車は競争力が大幅に改善される事で利用者の増加が期待できます。
第二には、折り返し運転により発生する機関車の繋ぎ換えに関連するコストの削減です。

また、過密区間の一部である稲沢−勝川間を回避できるため、従前より遅延が抑制できます。
信頼性の向上と柔軟なダイヤ設定が実現できるため、貨物列車利用者の増加が期待できます。

そして、ディーゼル機関車と関連設備等の削減、必要なトータル機関車数の削減により
輸送コストを大幅に減らす事が可能になります。重連運転(DD51)を単機(EH200)で置き換えられるため、
機関車単位で支払っているJR東海への線路使用料(アブボイダルコスト)も半減させられます。


以上の支出削減と収入増加により、結果としてJR貨物の収益が増加します。
これにより、必要であれば貨物列車の本数を増加させる事が可能となります。

第三章で記述した様に、城北線が現在の様な状態に置かれている理由が政治的なモノである
可能性が高く、JR貨物単体では如何ともし難いでしょうが、城北線へ貨物列車運行の
前例とも言える「 」
の効果を挙げるまでもなく、実現すれば収支改善効果はほぼ確実に見込めます。

DD51型の寿命が迫っており、関西線・塩浜線の電化が先行して行われそうな気配もありますが
JR貨物にも、是非とも城北線の完全開業を応援していただければと思います。



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